羽根木公園どんぐり探険会2013 レポート
2015/03/05
2013年10月27日、台風一過、でもまだ少し風が強い日曜日、第2回目となるグリーンライン下北沢どんぐりクラブの「羽根木公園どんぐり探険会」が開催されました。今回の講師は世田谷トラストまちづくりの小出仁志さん。小出さんは林学を修められ、前身のせたがやトラスト協会時代から合わせてこれまで25年間、世田谷の自然を守り・伝えるお仕事をなさってきました。多くの人口を抱える都会ながら、今でもゲンジボタルが生息する、世田谷の自然の奥深さを知ってもらいたいと言うことです。梅ヶ丘駅のすぐそばで、下北沢にもほど近い羽根木公園にはどんな自然が見つかるでしょうか?
どんぐりを探すための資料をいただいて、探検開始です。「どんぐり」とは栗にならない「どん」な「くり」という意味だそうです。渋抜きなどの手間をかけないと食べられないからです。でもシイの実などあく抜きしないで食べられるものもあります。
プレーパーク前を出発し、最初に出会った木はイチョウです。美味しいギンナンの季節ですね。朝4時から拾いに来る人もいるとか。銀杏は食べ過ぎると良くないと言われますが、どれくらいだと食べ過ぎかは諸説あってわからないそうです。イチョウという名は一枚の葉「いちよう」から来たという説と、葉っぱの形がカモの足に似ているので、中国語でカモを表す「ヤーチャオ」から転訛したという説があるそうです。
雑木林のエリアに入りました。かつての世田谷区は農村地帯。田畑と里山と人家が混在していました。この羽根木公園は1956年に公園に整備される前は根津山と呼ばれ、さらに古くは六郎次さんという鍛冶屋さんが住み、薪を採って利用していました。戦時中には多くの木が伐採されたとはいえ、里山的な植生が残るのが羽根木公園の特徴です。
農家の暮らしには里山は欠かせない存在でした。山の中の土は養分がたくさんあるので、何もしなくても作物ができますが、ずっと同じ場所で栽培を続ける畑には腐葉土などを入れ、養分を足し通水性・保水性を良くする必要があります。そのため里山の落ち葉で腐葉土を作っていました。
関東ではクヌギとコナラが里山の主役でした。この羽根木公園にも多く生えています。葉っぱに適度な厚みがあるので腐葉土になりやすいのです。また、燃料の薪としても適しているのがこの二種類で、とくにナラ類はじっくり長く燃えるそうです。このあたりは人の手が入る前はシラカシやヤブツバキなど常緑広葉樹中心の森でしたが、人が定住し、薪や落ち葉を利用するのに都合のいい木を選ぶうちに落葉広葉樹であるクヌギとコナラに行き着いたのでしょう。薪として利用していた頃は15年~20年ごとに切っていました。切ったところからひこばえが伸び、また15年~20年で薪をとれるまでに育ちます。椎茸のホダ木としても利用していました。昭和40年代以降、石油・ガス・電気の暮らしになると放置されるようになり、クヌギもコナラも背が高く太くなっています。
クヌギとコナラの見分け方はまず樹皮を見ます。どちらもごつごつと細かいしわの入った樹皮ですが、コナラ(右の写真)の方が皮の間が白っぽく(銀色っぽく)見えます。葉はクヌギの方が細長く、どんぐりはクヌギはまん丸でコナラは細長いです。
羽根木公園の雑木林の足元を見ると、ササが生い茂っています。ササを刈れば地面に太陽の光があたるようになり、土に埋まっていた種が活動を再開し、かつては咲いていただろうと思われる、キンランやギンランなどのさまざまな植物が生えてくるのではと小出さんはおっしゃっていました。
この草はミズヒキです。お祝儀袋などに使われる水引は、この花が表は赤、裏が白いことから、お目出たいものとして、使われるようになりました。種が熟したミズヒキの花序を指でなぞるとパンパンと種が遠くに飛びます。これはミズヒキの子孫を残す戦略です。カタバミの種も触るとはじけて飛びますね。植物には様々な生き残る工夫があります。どんぐりはころころと遠くに転がって発芽のチャンスを待ちます。ケヤキは葉っぱの根元に種をつけた小枝ごと落葉し、風にくるくると舞って遠くに運ばれるようにします。モミジの種にはプロペラがついています。等々力渓谷のような谷筋は風が通るので、モミジなど風で種を飛ばす樹種が多いのです。「ひっつきムシ」と呼ばれるオナモミなどの種子は人や動物にくっついて運ばれるのを狙います。
多目的広場の隣の雑木林に移動しました。この木はスダジイです。スダジイのドングリは生で食べられます。マテバシイのドングリも生で食べられます。大きくて食べやすいですが、味はスダジイの方がいいようです。クッキーやパンの材料にも使えます。どんぐりはたくさんなる年とあまりならない年があるそうです。養分を使い果たすと一回休みになります。今年はなり年のようです。
この木はシラカシ。スダジイと並んで、関東~九州の潜在自然植生である常緑広葉樹の主要な樹種の一つです。シラカシの材はとても堅いので、農機具の柄や太鼓のバチに利用されました。いざ伐採しようとすると堅くて大変だと言うことです。シラカシは防風林として家の北側の垣根にも利用されていました。南側には落葉樹のケヤキを植え、夏は木陰を作り冬は日差しが入るようにしました。土の上に落ち葉を敷き詰めて野良仕事の場ともしていました。次大夫堀公園に行くとそうしたつくりの民家を見ることができます。岡本民家園などでも今となっては珍しい5センチくらいの霜柱ができます。羽根木プレーパークでも霜柱ができて、踏んで遊べるそうですよ。
この木はサワラです。ヒノキと似ていますが、葉の裏の白い筋がX字状になっているのがサワラ、Y字状になっているのがヒノキだそうです。「ひわいがひのき」と覚えるそうです!サワラの葉の方が少しごわごわしているともおっしゃっていました。
エゴノキの実が落ちていました。5月に咲く白いかわいい花は、農作業の時期を知らせる農事暦にもなっていました。実がエグいから「エゴノキ」と言います。実の中にはサポニンという成分が入っていて、水につけると泡が立って石けんがわりになります。ムクロジの実はもっと泡立つそうです。ムクロジの実は黒くて堅く、はねるので、羽根つきの材料になります。サポニンを水に入れると魚が気絶して浮かぶので、魚採りにも使ったそうです。(魚は気絶するだけですよ。)
いろいろなドングリや木の実が落ちていて、ついつい拾うのに夢中になります。栗やクヌギなどによく虫が入っていますが、ゾウムシなどの幼虫です。どんぐりになってから穴をあけて産卵するも虫もいますが、花の時期から入る虫もいるそうです。
メタセコイヤの木です。外国の木のイメージがありますが、日本に元々あった樹種で、和名はアケボノスギ。成長が早いので並木によく使われます。
かわいい赤い実をたくさんつけているのはヒメリンゴ。真っ赤に熟していれば食べられます。みんなで食べてみました。熟していないのはちょっとえぐみがあって酸っぱいです。焼酎漬けにしても美味しいそうです。
まだらの樹皮に特徴があるプラタナスとも呼ばれているスズカケノキ。丸い実が鈴のように鈴なりになります。一週間前に下見したときは実が落ちていましたが、もうなくなっていました。
まずはクヌギのどんぐりで独楽を作ります。キリで殻斗(かくと)がついていた平らな方に穴を開けます。
爪楊枝を刺せばクヌギの独楽ができあがり。うまくバランスを取って作ればけっこう回りますよ。
つぎはマテバシイのどんぐりで笛を作ります。殻斗がついていた方をやすりなどで斜めに削ります。マテバシイは堅いのでけっこう大変。コナラのどんぐりならもっと簡単に削れますが、その分割れやすいです。
削れたら釘で中身を掻き出します。
下唇につけて吹くと音が出ます。小出さんが吹くといい音が出ますね!
最後はドングリを食べてみました。スダジイは生のままで。殻を割って中の白い部分を食べます。ピーナッツのような栗のような味です。軽く炒って食べても美味しいです。2~3分炒ると殻が自然に割れるので食べやすいです。
マテバシイの大きなどんぐりは、プレーパーク名物のたき火で炒って食べました。スダジイよりは少し味にクセがありますが、ビールにも合いますよ。
木漏れ日がきれいなプレーパークで、楽しい時間でした。小出さん、ご参加くださった皆さん、どうもありがとうございました。
クヌギやコナラの森の中の冒険遊び場、羽根木プレーパークは現代の里山のようなものかもしれません。でも子どもたちが大好きなカブトムシは住んでいないようです。カブトムシはクヌギの樹液を吸いますが、元気な若い木の幹の方が樹液をたくさん出すので、羽根木公園のように年取って太くなりすぎたクヌギの林ではカブトムシは住めないそうです。カミキリムシが幹に穴を開けて卵を産み、それをふさごうとして樹液をたくさん出すのですが、太くなると樹皮が堅くなってカミキリムシが穴を開けられないのです。薪にするために定期的に伐採されて、若い幹があり、幼虫が育つ落ち葉溜めのあるかつての里山が、カブトムシにも居心地のいい場所なのですね。
江戸時代には里山の管理システムが確立されていました。元禄時代、川越藩主だった柳沢吉保が開墾した三富新田(さんとめしんでん)は、屋敷林と畑と、里山である平地林がセットになった短冊状の独特な区割りになっていました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%AF%8C%E6%96%B0%E7%94%B0
そのように自然を巧みに利用して再生する、持続可能な暮らしを日本人はしてきたそうです。また、一部は切らずに守って鎮守の杜(もり)としました。使う場所と守る場所のバランスを取るのが日本人の自然観でした。
今回の自然観察会のテーマの一つは、下北沢地域の小田急線地上線路の跡地に将来つくられる緑地に、どんな木を植えたらいいかを考えることでした。カブトムシなどの生物多様性をはぐくむのは落葉樹中心の明るい森。間伐や下草刈りや腐葉土づくりなど、人が手間暇をかけてこそ生き生きとしてきます。人が入る以前の太古の森は常緑広葉樹が中心。九州の照葉樹林は手つかずの生態系が守られています。その場所と利用する人々がどういうつきあい方をするかから考えるといいのではと、小出さんにアドバイスいただきました。グリーンライン下北沢では、線路跡地の整備が終わる2018年度に向けて皆で考えていければと思います。
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