「下北沢で学ぶ。まちをつなぐパブリックスペース。」 セミナーレポート
2016/12/13
日時:2016年 4月 16日[土]14:00ー16:00
場所:北沢タウンホール11F 研修室3,4
講師:田中 亙 氏(日建設計 執行役員)
◯セミナー開催の経緯
下北沢の小田急線あとちには2.2kmのパブリックスペースが誕生しますが、シンガポールでは24kmの廃線跡地をパブリックスペースに再生するプロジェクトが進んでいます。
マレー鉄道跡地のレールコリドー再開発国際設計コンペでは“非凡で感性を刺激するパブリックスペースとしての再生”が求められ、日建設計によるマスタープランの提案が優勝しました。
コミュニティーを結びつけるパブリックスペース、国やデベロッパーや周辺の人々が育てていくビジョン、それらがどのように創られ、使われていくのか、新しいパブリックスペースの可能性と実践について学ぶため、今回のコンペを担当された日建設計 執行役員 田中亙 氏をお招きし、今回のセミナーを開催しました。
世界で広まりつつある、“Brown Field”から“Green Field”への動き
“Brown Field”(産業用地)を“Green Field”(自然領域)に変えるという試みは、現在世界中で行なわれています。例えば、メルボルンではヤラ川の川沿いにいろいろなパブリックスペースになっています。ニューヨークのブロードウェイでは、昔は車道だったところが、ほぼ歩行者のスペースに。京都などでも、道路の車線を変更し、歩行者のスペースにしようという動きがあります。特に廃線利用については、世界中で行われており、ニューヨークのハイライン、シカゴのブルーミングデイル・トレイル、パリのプロムナード、 シドニーのグッドラインなどがあります。今回のコンペは、こうした事例もあるなかで行われた国際コンペ でした。
コンペの条件は、自転車道と人が通行できる道をつくること。その場所でどういった活動・アクティビティをやるかは提案次第。
シンガポールからマレーシア、タイ・バンコクまでつながっていたマレー鉄道は、2011 年にシンガポー ル内にあった線路が廃線となりました。この他の部分はまだ使用されており、物資や人を運んでいます。現在の線路跡地は、完全に緑の中にあります。時には、10kmぐらいのランニングイベントも行われ、普段から人や自転車の通行に利用されています。
コンペは URA(都市開発庁)主催で行なわれました。24kmの跡地をどのようにデザイン・計画するのかというのが課題で、条件は、24km全てに自転車道をつくること。人も通行できることでした。その場所でどういった活動・アクティビティをやるかは提案次第ということで、デザインでもあり企画でもある内 容のコンペでした。
チームメンバーの条件は、リードアーキテクト、リードランドスケープアーキテクト、そして、シンガポ ールのローカルなチームをもつことで、私たち日建設計は、リードアーキテクトとリードランドスケープア ーキテクトを、地元のチームとしては TRI デザイン事務所が担当しました。また、土木エンジニアやエコ ロジストの方、照明事務所、アート集団、積算の会社ともチームを組みました。
コンペは、世界から 64 チームが参加し、5 チームが一次審査を通過。その後、3 ヶ月間で分厚いレポートを提出するなどして、昨年 11 月にマスタープラン部門で優勝しました。建築部門については、建築の保存に強い、地元の事務所が優勝しました。
提案のタイトルは、「Stitching the Nation with Lines of Life」
かつては線路があり横断できなかった場所を、左右がつながる場所へと変化していきたいとの思いから、 提案のタイトルを「Stitching the Nation with Lines of Life」にしました。線路の左右から入った時、または見た時に、どのように使われるのか、そういったところを大事にしてデザインしました。 また、シンガポールは交通が発達している為、その中でスローでフレキシブルでリラックスできるそんな 場所にしようということを考えました。
期待されているアクティビティは何か?というところから分析し、6つの計画方針をつくりました。空間の魅力づくり、アクセスが良いこと、移動が快適であること、記憶に残る体験(歴史要素)ができること、 自然との融和、コミュニティとともに成長すること。これらをもとに全体を8つの地区(8Stretches)に 分け、その中にノードを設けていきました。その次に、場所の特性に合わせて、いろんなプログラムをあてはめ、それももとにデザインしていきました。
周辺の交通アクセスと敷地は様々な交わり方をしているので、3~5分に1カ所、全部で122カ所の入り 口(122Entry Points)をつくりました。いろいろな地形で交わるので、住宅に接しているようなところ があればプライバシーを守れるようなデザインにしたり、法面の処理の仕方や人が留まれる場所を工夫したりしました。
快適な移動空間としては、基本的には歩行者と自転車を分け、現状よい状態の植物は残し、ほぼ雑草に近い 状態のものはとって緑のトンネルをつくろうというのが基本的考え方です。 ただ、自転車道と歩道を本当に分けるかどうかは、いまも議論されています。メインパスと二次的なパスをつくり、合流点においては分離帯などを設けるかなど。例えば、休憩所の正面側は歩行者、裏側から自転車 が入るようにするなど工夫しています。
また、タンジョンタガール駅の駅舎など、現存している駅舎については、少し改修して使おうと、 また、周辺に歴史遺構があれば、サインを設けたりしました。シンガポールは国としてはまだ歴史が浅いということもあり、歴史を大事にしようというところがあります。また、水も大切にされている。現在は、ほとんどがプラントにより供給できるようになっていますが、それまでは、ずっとマレーシアから水を買っていました。そういったことからも、降った雨の水はきちんと川に流れるようにするなど、水にセンシティブ なデザインをしていこうと決めました。
シンガポールの市民参加もあたりまえのように行われています。日本と少し違うのが、政府が強い国であるということ。去年、政府はおよそ2~3ヶ月かけて近隣住民にコンペの提案内容を説明しました。今はそのフィードバックを受けて作業しているところ。この作業の後に、展示会を行う予定です。
このコンペをする前は、シンガポールに詳しくなかったのですが、シンガポールには学ぶ事が多いと感じ ました。公共領域をデザインして行く上で、企画やプログラミング、都市計画、建築、土木、積算…と様々な大事な物があり、それぞれのアイディアを持ち合って、どのようにしたら良好な環境がつくれるかということが、今回、チームとしてできたと思います。
24km あるなかで、一つ一つとしては細かいデザインがあり、それがある程度特徴を持ってまとまり、 つまりそれは、周辺の住民にとっては近隣公園のようなものがあり、一方で政府公共政策としてどうかという、一人一人がどのような体験ができるかというヒューマンスケールの話と、全体のスケールでの話を行ったり来たりして、作業的には大変だがこれをやらないとうまくできないと感じた。
今回のプロジェクトは、政府の土地で政府が資金を出して行われるものです。その為、民間の資金は入ら ないとのことです。ただ、今後管理して行く事を考えると、税金だけではまかなえなくなるので、周辺の住民や民間開発者などにも参加してもらい管理をしていかなければなりません。また、設計者や NPO/NGO、 アドバイザーなどいろいろな人たちが関わってきます。そのような関係者に対して政府は、“自分にできることは何ですか”と必ず問いかけるようにしている。プランを見せただけでは、好き嫌いの話になってしま うので、何ができるのかと問いかける。こうすることで答え方が変わるのだそうです。自分のものとして見てもらうことで良い物をつくっていこうとしています。
今回コンペで最終的に選ばれた、評価点とは
他のチームの提案は見ていないので、比較はできていませんが、審査委員の評価がホームページにも掲載されていて、基本的には全体のマスタープランの骨格から細部のデザインまで、つまり、全体としてのロジッ クがよく通っているとのことでした。短いコンペ期間の中で、全体で何が一番大事かをはっきりさせて、デ ザインしていった。政府としては、住民の意見徴収をしていくので、その中でデザインは変わることになったとしても、全体のロジック、思想が変わらないことが大事です。掲載されている文章を見ると、きっとこういうことではないかと思います。
自転車と歩行者の分け方について
シンガポールは、近頃自転車が流行っているそうで、現在相当数の自転車道をつくろうというプロジェクトが進んでいます。特に夕方は涼しくなってくるので、人が外に出て活動を始めます。なので、朝と夕方は自転車を使う人が増えています。通勤に使うような人たちは、スピードを出しているので、自転車の事故も 増えてきているのが現状だそうです。 シンガポールでは、基本的には車道を通らなければならないというのと、スピードを出す人がいるというのを考慮して、最初の提案としては、歩道と自転車道は分けるという提案をしました。ただ、狭いというのと全て分けると味気ないというのがあり、ローカルの事務所や政府から、もう少し共存の道がないかとの話 があった。なので、舗装を変えたりカーブを入れたりして、自転車がスピードを落とすようなものにすると か、留まれるようなスポットがあれば自然に停まってくれるのではないかなど、現段階では共存できるよう な考えで進めています。
セミナーの後半は、日建設計のランドスケープ部の鈴木卓さんにもご登壇いただき、NPO グリーンライン メンバーや会場の皆さんとの質疑応答を行いました。
樹種の選定の仕方やグリーンインフラの観点は?
鈴木氏: 樹種に関しては、エコロジストのギャリーさんと考えています。エコロジーの部分については、周囲からのいろんな反響がありました。基本的には豊かな自然をどのように残して行くのかが、今後重要なポイントとなってきます。URA からのローカルなエコロジストを入れてほしいとの要望があった。特にシンガポー ルの原生林が残っている間を通っているレールコリドーの部分に関しては、土を豊かにして、最終的には、 ネイティブな森として再生させていきたいと考えています。
グリーンインフラの話としては、シンガポールは震災が少ないので、震災に関する条件などはなかったです。
今後の計画の進め方はどのようになっているか?
田中氏: 一番始めに取りかかる4Km の部分は、自然が多い、使用する人が比較限定されてくるところです。住宅と接するところは半分くらいで、ある程度反応が見えやすいと言えます。これは政府側の戦略と思います。 おそらく今後も、やりやすいところからやっていくと考えられます。次やるとすれば企業を巻き込めるような場所ではないかと思います。
下北沢と違うのは、周囲がそれほど密集していないということ。商業と住宅が非常に近い。シンガポールの場合は幅が30~40m ほどあるので余裕がある。下北沢のほうが課題は大きいと思います。
既存鉄道とクロスポイントはどれくらいあるのか? また駅との関係は?
鈴木氏: 122のクロスポイントがあります。シンガポールを南北に横断するこのレールコリドーをいかにまちにつなげるのかを重視していました。その為、24km のレールコリードーの中で、それぞれの人が様々なところから入って、まちに、駅にでる、バスに乗るといった、日常生活の中でレールコリドーを利用してもらえるように考えています。
田中氏: レールコリドーと駅(既存の線路)が立体交差する部分があります。敷地内には、駅はないので駅のデザインの計画はできませんが、駅からのアクセスはしやすいようにデザインしています。
鉄道の記憶のデザインについて
田中氏: 鉄道は、どちらかというと産業的な使用をされていたようです。なので、現地の人との会話では、そういったことは感じられませんでしたが、古いレールや信号機など保管しているものもあるそうなので、今後そういったものもデザインに組み込んでいけるかと思います。
参加者からは、人々の記憶というよりかは産業遺産として、もっとマクロな視点でグローバルな解釈が必要と思い、そういったことを担当する人はいないのか?との質問が。
田中氏: シンガポールの発展の象徴の一つとして、マレー鉄道があります。マレー鉄道は、元は貨物列車として使用されていました。実は、そういった記憶を展示する場所を設ける事も提案の中に入れていました。質問者さんの言う通り、産業としての鉄道の解釈は非常に大切と思います。
市民の参画意識について
田中氏: 市民参加については、アクティビティの提案の中で、アーバンファーミングとして利用を提案した部分があります。実は、シンガポールの中では、若干ですが、アーバンファーミングが流行りつつあります。しかし、やはり管理の問題があるのも事実です。また、提案ではバーベキューができるように提案したのですが、バーベキューガーデンにすると、うるさいという理由で、ファーミングのみにしてほしいとの要望がいまあるそうです。
今後、下北沢の計画が進んで行く中でのアドバイスは?
シンガポールと比較すると、スペースとしては狭いので、30センチ・50センチのデザインが勝敗を分けると思います。建物をたてるとしたら、1階部分のエッジをどうするのか、備蓄倉庫等はわかりやすい位 置に配置されるのかなど、作り込みのやり方があると思います。
どのような部分を世界にアピールできる部分として提案したのか?
田中氏: シンガポールでは観光が盛んなので、観光は国にとって大事な資源です。南の4~5km は観光にも使用できる部分になると思います。また、自転車とは違う観光客用の交通手段が出てくるかもしれません。また、シンガポールは国土が狭いので、港湾の方では埋め立ての計画があります。埋め立てが進むと今までは、線路の端となっていたところが、まちの中に入ってくる可能性がある。なので、他の部分も踏まえて、 最初から重い使い方はしないようにしています。
鈴木氏: シンガポールでは、”City in the Garden”という言葉がよく使用されています。市民も行政も緑の中のまちづくりをしていこうという意識が高いです。
今、観光地ともなっている非常に先進的な”ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ”、様々な植物がある”ボタニッ クガーデン”そういったものたちに対して、レールコリドールはどうあるべきかと考えた時に、国を縦断し ている非常にユニークな可能性を秘めた場所として、観光というよりは、市民ひとりひとりにとってのパブ リックスペースであることを認識して、私たちはデザインしました。
また多様な民族が同じ場所を利用する事も魅力的な課題として捉えています。 下北沢での話で言えば、これまでにニューヨークのハイラインについてもお話しされたと思いますが、ハイ ラインとの違いは、高架ではないこと。つまり、地面に、まちに直接接しているということです。これはレ ールコリドーと一緒です。線路跡地の左右の土地利用、商業の方、住民の方などの特徴を細かく読み取って提案が生まれて、そこに市民が参加して、新しいダイナミズムになると良いと思います。
最後に、市民から住民運動の中で住民と自治体が手を携えて力を合わせて、良いまちづくりをおこなってい きたいとのお言葉をいただき、今回のセミナーは終了致しました。
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